俺の棒銀と女王の穴熊〈6〉 Vol.22
☗4 JKミスコンの地方投票がスタートした、らしい。 依恋はSNSを中心に注目を集め、まずは関東の代表を目指すとのことだが、来是にはいまいち詳しい仕組みがわからない。たまに途中経過を聞けばそれでいいかと思った。 それに、依恋ならきっと勝ち抜くだろうという確信もあった。心配することなど何もない……。 「うふふ、新聞部史上最高の記事じゃない?」...
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「ん……すみません、ちょっと出てきます」 紗津姫が携帯を持って部室の外へ出た。 彼女をマネジメントする会社、もしくは伊達清司郎プロデューサーから連絡が入って中座するのは、もはや日常茶飯事である。学校にいる間は遠慮すればいいのにと思うが、社会人の彼らにもいろいろ時間の都合があるのだろう。 「あの人、学園クイーンなんですよね?...
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その後はつまらないヘマはせず、しっかりと上級生の面目を保った。そして気がつけば部活の終了時刻。夏至も間近なこの季節、外の明るさだけで時間の変化を測るのはなかなか難しい。 「そうだ、さっき言ったLPSOの将棋大会、出てみませんか? 今度の土曜日に」 「おお、いい考えっすね。みんな、予定がなかったら参加してくれ。今までの練習の成果を見せるときだ」...
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☆ 今日から梅雨入り、土曜日の朝はそんなニュースで幕を開けた。空は一片の隙間もない灰色模様で悪い予感がしていたが、午後になると案の定ぱらぱらと雨が降り始めた。しかし将棋ファンはそんなことで足が遠のきはしない。来是はそう確信しながら家を出た。 そして桃色の傘を差した依恋と遭遇した。 「何やってんだ?」 「お店、一緒に行きましょ」 「あのな、関係者じゃないのに開店前に入れるわけないだろ」...
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来是は開店に向けて準備を整えながら、着席して出番を待つ財部を横目に見る。高遠から提供された紅茶を飲む姿が、とても楽しそうだ。あんな一面があるだなんて、絶対に誰も知らなかっただろう。...
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しかしそんなこともすぐに頭の片隅に追いやられる。いつしか雨脚が衰えていたこともあり、客足がさらに伸びてきた。来是はもう解説に耳を傾ける余裕もないほど、満員御礼状態のフロアを忙しく行き来した。 そして午後六時に差し掛かる前に、戦いに終止符が打たれた。 「……あ、ここで伊達棋聖が投了したようです」 財部が言うと、いくつもの溜息が重なった。どうやら客たちの大半は、伊達清司郎ファンだったようだ。...
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☆ 「すごーい、プロと一緒に仕事してるんだー」 「将来はやっぱ、将棋の仕事に就くの?」 「い、いや、どうでしょうね」 「そういやこの前さ、将棋系男子って特集が雑誌であって!」 「あったあった。策士っぽいとか言われない?」 「全然ないです……」...
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紗津姫はまるで図星を突かれたように、何も言えずにいた。 「じゃあ、依恋には答えられるのか?」 答えられるわけがない。だから先輩を困らせることを言うな。そう言いたかった。 しかし、彼女は間髪を入れず答えた。...
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――などと冷静な態度でいられたのも、帰宅するまでだった。 自分の部屋に戻り、バッグを放り投げ、ベッドに体を預ける。深呼吸する。そうすると身もだえするほどの歓喜が大波となって流れ込んできた。 まさかの告白。夢じゃあるまいかと頬をつねり、ついでに頭も叩いてみるが、間違いなく現実だった。...
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☗5 「どうかしら。ポニーテールも似合うと思うんだけど」 「さすが依恋先輩! スタイリストの才能もあるんじゃないですか?」 「神薙先輩、なんてお綺麗な……」 「まさに女王の存在感です!」 山里を筆頭に、一年女子たちが感嘆の声を上げる。一方、男どもの語彙力の貧困さは致命的だった。 「やばい、これはやばい」 「マジやべえ」 「ウヒョー!」...
View Article俺の棒銀と女王の穴熊〈6〉 Vol.19
☆ テレビカメラが入るらしいよ。プロデューサーである伊達名人からそう聞かされていたので、それが将棋会館の前で待ち構えているのを見ても、ごく自然にやり過ごすことができた。...
View Article俺の棒銀と女王の穴熊〈6〉 Vol.20
不思議なことに、来是との対局と同じ展開を辿っていた。相矢倉の定跡は比較的長いとはいえ、つい昨日の将棋と何十手も完全に一致するというのは記憶にない。 あのときは後手を持っていた自分が、最初に勝負手を繰り出した。そこから攻めが続き、来是が妙手を逃したこともあり勝利を収めることができた。 今、その局面まで来た。...
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出水と別れ、地元の駅へと戻る。しかし足は自宅ではなく、彩文学園を通り過ぎて、彼の家へと向かった。太陽のせいではなく、ますます体が火照る。 ミニ合宿のために碧山家を訪れたことが何回もあるから、その隣の家がどんな風なのかは知っている。しかし、好きな人が住んでいる家なんだと認識するのは、これが初めてだった。 対局のときよりも緊張しながら、いよいよ目の前まで来た。...
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☗4 JKミスコンの地方投票がスタートした、らしい。 依恋はSNSを中心に注目を集め、まずは関東の代表を目指すとのことだが、来是にはいまいち詳しい仕組みがわからない。たまに途中経過を聞けばそれでいいかと思った。 それに、依恋ならきっと勝ち抜くだろうという確信もあった。心配することなど何もない……。 「うふふ、新聞部史上最高の記事じゃない?」...
View Article俺の棒銀と女王の穴熊〈6〉 Vol.23
「ん……すみません、ちょっと出てきます」 紗津姫が携帯を持って部室の外へ出た。 彼女をマネジメントする会社、もしくは伊達清司郎プロデューサーから連絡が入って中座するのは、もはや日常茶飯事である。学校にいる間は遠慮すればいいのにと思うが、社会人の彼らにもいろいろ時間の都合があるのだろう。 「あの人、学園クイーンなんですよね?...
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その後はつまらないヘマはせず、しっかりと上級生の面目を保った。そして気がつけば部活の終了時刻。夏至も間近なこの季節、外の明るさだけで時間の変化を測るのはなかなか難しい。 「そうだ、さっき言ったLPSOの将棋大会、出てみませんか? 今度の土曜日に」 「おお、いい考えっすね。みんな、予定がなかったら参加してくれ。今までの練習の成果を見せるときだ」...
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